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白杖(視覚障害者安全つえ)について

1 白杖の機能

白杖は、厚生労働省の「補装具の種目、購入等に要する費用の額の算定等に関する基準」に「視覚障害者安全つえ」の記載がありますが、一般的には白杖(はくじょう)と呼ばれています。白杖の携行については道路交通法第十四条に『目が見えない者(目が見えない者に準ずる者を含む。以下同じ)は、道路を通行するきは、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める盲導犬を連れていなければならない。』と定められています。車両の運転者は障害を持つ人に対し特に安全を配慮する義務を持ち、その対象であることが分かるように白杖の携行を義務付けているわけです。このように、一般通行人や車両運転者に対して視覚障害を持つことを知らせる働きは、白杖の果たす機能の一つであるといえます。また、この機能を含め、白杖には以下の3つの機能があります。

(1)
視覚障害を持つことを周囲に知らせる
(2)
触覚を通じて路面の情報を収集する
(3)
路面上にある障害物を検知する

1-1 視覚障害を周囲に知らせる機能

白杖は現在世界中で使用されおり、世界中の多くの人が、白杖を使う人が視覚障害者であることを知っています。このことから、白杖を持つ人は周囲の車両や人から衝突等の危険が生じないように配慮を受け、困っている時には援助の手が差し伸べられやすくなっています。

1-2 触覚を通じて路面の情報を収集する機能

見えない、見えにくい状態で知らない場所を歩く時に生じる怖さの一つは、「そこに道(床)があるか?」ということではないでしょうか。駅のホーム、下り階段、側溝、蓋の空いたマンホール等、落ちたらケガをしたり、命を落とす危険があるかもしれません。白杖は、次に足を運ぶ場所に触れて、路面があることを確認する道具として使うことができます。

1-3 障害物に対する防御の機能

見えない、見えにくい状態で歩く際のもう一つの恐さは、何かにぶつかることでしょう。硬いものにぶつかれば大けがをする可能性があります。白杖を身体の前で斜めに構えるか、身体の正面前方で肩幅よりも少しだけ広めに低く振りながら歩けば、路面から垂直に出ている障害物や段差を事前に発見できることができ、身体をぶつけたりつまずく危険性を低くすることができます。

2 白杖の形式

白杖はつなぎ目のない直杖(rigid canes)、つなぎ目のある折り畳み式杖(folding canes)、アンテナの様な伸縮式の3種類があります。折り畳み式杖は一般的に5cm刻みの寸法で売られています。また、白杖には使用目的の異なるものがあります。白杖のみで歩くためには2歩先を探る長さが必要なため、その目的で使う杖をロングケーン(long cane)と言います。白杖の3つの機能を使うのではなく、主に周囲に視覚障害を知らせる目的で使う短めの杖をIDケーンと言います。(英国ではロービジョンの人が対角線技術で使うための白杖をガイドケーンとよんでいます。)また、IDケーンの特徴と整形外科等で使う身体を支えるための杖の特徴を併せた身体支持杖(サポートケーン)があります。

3 白杖に必要な仕様

機能的な白杖であるためには、以下のような性質をもっていることが望ましいと言えます。

(1)
触覚情報の伝導性が良く、温度や電気の伝導性が低いこと。
(2)
適度な軽さであること。
(3)
重心がグリップ寄りにあり、操作時に重さを感じないこと。
(4)
強さ、耐久性、剛性、形態安定性を備えること。
(5)
昼夜共に視認性が高いこと。
(6)
握りやすく、操作性が良いこと。

直杖と折畳杖を比較した場合、(1)、(2)、(4)については直杖の方が優れています。折畳式の白杖は歩かない時に小さくたためることが長所です。(1)については例えば折畳式杖が極端にものに触れた時の感覚が鈍いかというと、実際はそれほどその差は大きくはありません。比較すれば直杖の方が良いという感じです。ただし感覚は個人差があるので、実際の違いは確かめていただくのが一番良いでしょう。(4)については、つなぎ部分があると、その部分がどうしても破損しやすくなります。しかし、白杖が破損した場合、折畳式白杖は破損した部品のみの交換が可能ですが、直杖はシャフトを丸ごと交換する必要があります。

4 白杖の材質と特徴

現在市販されている白杖の主な材質はアルミニウム合金、グラスファイバー、炭素(グラファイト、カーボン)繊維、アラミド繊維の四種類です。素材の比重(水を1とした場合の重さの比)だけを比較すると、アルミニウム合金2.7、ガラス繊維2.6、炭素繊維1.6、アラミド繊維1.3で、アルミニウム合金が最も重く、アラミド繊維が最も軽いのですが、比重は杖の重さに関係しても、強度には必ずしも関係はしていません。アルミニウム合金とガラス繊維を比較した場合、アルミニウム合金は強度が高くガラス繊維は低いため、強度を高めようとするとガラス繊維の杖は重くなります。炭素繊維とアラミド繊維を比較すると炭素繊維の方が強度は高いため、同程度の強度の白杖であれば重さは大差ありません。アルミニウム合金は摩耗性がもっとも低く丈夫な素材ですが、弾性に欠けるため、変形しやすいことが難点だと言えます。

5 白杖の構成

白杖は4つないし3つの主要部分から構成されています。クルック(crook)、グリップ(rubber grip)、シャフト(shaft)、石突き(cane tip)です。

5-1 クルック

クルックとは傘の柄のように、丸くまるまった部分をさし、機能として次のことが上げられます。

(1)
使わないときにフックなどに掛けておく。
(2)
白杖を構えたときにクルックは自然と下を向き、構える位置を容易に判別できる。
(3)
対角線技術で白杖を使うときに手首を保護する。
(4)
傾斜路で白杖を落としたときに、白杖が転がらない。

5-2 グリップ

グリップは白杖を握りやすくするために付けられており、材質はゴム製のものが多いです。ゴルフのパターグリップを流用したのが始まりだといわれています。多くのグリップは一側面が平らになっており、ここに人差し指又は親指の腹の部分を当てます。クルックの付いた白杖の場合、クルックを下に向けて白杖を握るので、クルックのある白杖は右利き、左利きそれぞれ専用になります。
ゴムグリップは滑りにくく、熱の伝導性が低いことから白杖が熱い、あるいは冷たいときでもグリップは適度な温度を保ってくれます。なお、ゴム以外にもプラスティック、皮革あるいは皮革製テープを巻いたもの、金属製などのグリップもある。デザインケーン以外のグリップの上の部分には、ゴムひもが付いていることが多いです。利用者の中には白杖を落とさないように、このゴムの輪に手首を通す人がいますが、自動車等に白杖を巻き込まれると身体を引き込まれる危険性があるので、腕を通して使うことは好ましくありません。これはフック等に白杖をかけるためのものです。

5-3 シャフト

シャフトは白杖の本体部分を指します。材質やその特性は前述の通りです。販売されている多くのものは反射テープが巻いてあるため、夜間の視認性が高いことも前述の通りです。

5-4 石突き(チップ)

石突きは1)路面との接触によるシャフトの磨耗を防ぐ、2)白杖が路面に接触する際の引っ掛かりを和らげるという2つの機能を果たしながら、路面からの触覚情報をより多くシャフトに伝える役割を果たしています。使い勝手、機能性を考えると後者の機能はとても重要です。通常購入時に付属している石突はノーマルチップと呼ばれるもので、シャフトよりも一回り太い円柱形の石突であることが殆んどです。路面との接触面積が小さいことと、未使用時は円柱形の形状をした石突の角部分で路面に触れるために路面の凹凸に引っ掛かり易いのですが、使用するまえに路面に当たる角度で石突を削っておけば、引っ掛かりを少なくすることができます。石突の素材は適度に摩耗するナイロン製のものが多く見られます。
現在日本で手に入る石突きはほとんどがシャフトの上から被せるタイプです。石突きは機能面で分類すると以下の3つの群に分けられます。

1) シャフトに固定された状態で使用する形式
シャフトの直径よりやや太いノーマルチップ、太く短くして接地面積を増やしたマシュマロチップ、マシュマロチップを背接地面の形状は同じで、しずくが落ちる形をしたティアドロップチップ、直径が55mm程の球形をしたボールチップ(米国製)、直径20mm程度の半球状をしたセラミックチップ(米国製)等がある。

2) 本体が回転する形式の石突
形状がマシュマロチップと同形のローラーチップ、直径65mm、厚さが25mmのディスク状をしたジャンボローラーチップ(米国製)、ボールチップを同じ形状のローリングボールチップ(米国製)等があります。

3) 軸と石突の間にゴムをマウントして石突本体が動く形式のもの
国産のパームチップ、米国製のフレックスチップがあります。
上記以外の特殊な石突として雪道用のスノーチップ(ノーマルチップにかぶせて使用)、同じくダコタディスクチップ(米国製)、直径76mmの大きな車輪がついたローバー・フリー・ホイーリングチップ(荒れた道用・米国製)等があります。米国製の一部は国内でも入手可能ですが、取り扱いのないものについてはAmbutechのホームページから購入が可能です( https://ambutech.com/shop-online/cane-tips )。

石突の種類がこれだけ多いのは、使用する環境、白杖の使い方に応じて石突を変えると歩きやすさ、使い勝手が大きく変わるからです。基本的には上述したように接地面積が大きいほど路面への引っかかりが少なくなり、ストレスは減少しますが、質量が大きければ重くなり長時間の操作で疲労しやすくなります。軽さ、触覚情報の伝導性を最優先するのであればノーマルチップ、メタルチップ、セラミックチップ等が選択肢として上げられ、伝導性を優先しつつ引っかかりを軽減したい場合はマシュマロチップ、ティアドロップチップが選択肢として上げられます。引っかかりの軽減と軽さを最優先したい場合はパームチップ、フレックスチップが選択肢として上げられます。ローラーチップ系はタッチテクニックの習得が難しい、あるいは好まない人の選択肢となり、チップの大小は重さに直結しますが、大きい方が路面の凸凹を拾いにくく、操作時のストレスは少なくなります。

引っかかりを避ける目的として、アメリカにはcurved tip といって、ノーマルチップを熱で100度の角度をつけて曲げたものがある。これは地面に対する引っ掛かりを軽減するために作られたものです(LaGrow, Kjeldstad & Lewandowski, 1988)。LaGrow et al.(1988)は15人の晴眼者を被験者に使い、アイマスクをかけてノーマルチップ、curved tip、マシュマロチップの3種類について引っ掛かり、縁石の発見、連続歩行の3点について実験を行った結果curved、マシュマロ、ノーマルの順に成績が良かったのだそうです。この知見からもわかるように、接地面積が大きくても縁石発見の成績が悪くなることはありません。ひっかかりを逃がすパームチップも縁石をとらえた時の触覚情報が大きく減衰することはありません。訓練士はそれぞれの石突の特性を十分理解し、訓練生の特性にあった石突が選択できるようにするべきでしょう。
なお石突きは磨耗する性質のものですから、シャフトが露出する前には交換しなければなりません。石突をシャフトから外すためには、石突の根元部分に熱湯をかければ素材が柔らかくなるので、簡単に引き抜くことができます。

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