盲学校には「歩行訓練士」が必要です! 視覚に障害のある全ての子ども達が、専門的な歩行指導を受けられるために 令和8年4月 日本歩行訓練士会 歩行指導は、視覚障害特別支援学校(以下、盲学校)における自立活動の中心的な指導内容の1つです。視覚に障害のある幼児児童生徒にとって、歩行におけるさまざまな課題や困難を克服し、卒業後の自立を図るためには、専門性を有する歩行訓練士による歩行指導を通じて、長期的にその歩行能力を高めていく必要があります。 しかし、歩行訓練士教員(歩行訓練士の養成研修を受けた教職員)が在籍していない、あるいは福祉施設等に在籍している歩行訓練士が外部専門家の非常勤職員として任用されていない盲学校では、高い専門性と安全性の双方が保障された歩行指導を受けることが難しいという現状があります。 私たちは、盲学校や地域の学校で学ぶ視覚障害児者の自立を図るために、教育機関における歩行指導に歩行訓練士が携わることの重要性や必要性を、強く主張いたします。 盲学校の自立活動・歩行指導とは 盲学校の歩行指導は、自立活動として行われます。 自立活動は、特別支援学校等において、個々の障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するために特別に設けられた指導領域です。もっと簡単に説明すると、「見えない・見えにくい子どもが困っていることに向き合う時間」と言えましょう。彼らが自立、社会参加するうえで、なくてはならないものなのです。 盲学校の自立活動では、点字の指導や弱視レンズの活用、日常生活動作の向上、そして歩行指導など多岐にわたる内容が実践されています。私たち盲学校に在籍する歩行訓練士教員は、その専門性を十分に発揮し、「歩くためだけの指導」ではなく、幅広い視点から指導を行っています。例えば、近隣のお店に買い物に行く学習では、白杖の使い方だけではなく、経路を調べたり、周囲の情報を得る練習をしたり、買い物の方法を学習したりするなど、まさに自立に向けた学習を行っているのです。 歩行訓練士とは 人間にとって、目は外界を知るための大切な役割を担っています。生まれながらにして、あるいは人生の途中で視機能に障害を受けた場合、生活や仕事などに大きな困難が生じると考えられ、当事者やそのご家族の失意は計り知れません。当事者の「今ある力」を見つけて伸ばしたり、その力を補助するための道具を探したり、様々な工夫を考えたりすることで、様々な困難を一緒に乗り越えようとするのが、歩行訓練士です。 歩行訓練士とは、社会福祉法人日本ライトハウス養成部と国立障害者リハビリテーションセンター学院での養成課程を修了した専門家の呼称です。視覚障害に関する基礎知識ならびに障害特性に応じた教育手法や支援技術をベースに、医療や教育、福祉などのあらゆる分野において、乳幼児期から老年期まで幅広い年代を対象として働きかけます。 我が国では1970年に社会福祉法人日本ライトハウス養成部で歩行訓練士第1号が誕生して以来、現在も上記2つの養成課程で養成が続いています。また、多くの歩行訓練士が、日本歩行訓練士会に加入して専門性の向上を図っています。 盲学校における歩行訓練士教員の現状 視覚に障害のある幼児児童生徒の自立と社会参加において、歩行指導や歩行能力を促すための取組は重要です。 しかし、全国の盲学校のうち、歩行訓練士教員が在籍している盲学校は約半数にとどまります。また、歩行訓練士教員が在籍していても1名程度であることが多く、人事異動などで歩行訓練士教員が盲学校に1人もいなくなり歩行指導の専門性が継承されにくくなっているという課題があります。 一方で、3名以上の歩行訓練士教員が在籍している盲学校もあります。歩行訓練士教員が複数名在籍していると、学部ごとに歩行訓練士教員を配置できるなど、幼児児童生徒に対する歩行指導や歩行能力を促すための取組が自立活動の時間だけでなく学校生活全体を通して可能となります。また、歩行訓練士教員を中心に、校内研修等を行って教職員や保護者の歩行指導等に関する意識や知識・技能の向上に努めたり、地域の学校に通う視覚障害児に対する歩行指導等を行ってセンター的機能を発揮したりすることも可能となります。 ところで、歩行訓練士教員が複数名在籍している盲学校でも、地域の視覚障害関連施設に所属する歩行訓練士(外部専門家)と連携・協働していることがあります。これにより、充実した歩行指導等が行われることに加え、教職員や保護者は、医療・福祉に関する知識を得たり、幼児児童生徒の卒業後のイメージを持ちやすくなったりするという利点があります。 視覚に障害のある幼児児童生徒の自立と社会参加を促進するためには、盲学校に歩行訓練士教員が複数名在籍していることが必要であり、かつ、外部専門家と連携・協働することが重要であると考えます。 ある歩行訓練士教員の1日 盲学校に在籍する歩行訓練士教員は、歩行指導以外にも、教科指導や担任業務、校務分掌業務等、教育職として学校教育活動全般の多岐にわたる日々の職務に携わっています。こうした職務を遂行するなかで、授業(自立活動の時間)として歩行指導を行ったり、始業前や放課後などの授業時間外において登下校等のための歩行指導を行ったりしています。例えば、高等部でクラス担任を担っている歩行訓練士教員の1日の例は、以下のようなものです。 朝のSHR  生徒の出欠確認と体調確認、連絡等 第1校時  授業(高等部保健理療科・歴史総合の教科担任) 第2校時  教材研究、分掌業務等 第3校時  授業(高等部普通科・公共の教科担任) 第4校時  教材研究、分掌業務、給食の配膳等 第5校時  授業(中学部・自立活動の時間における白杖歩行の指導) 第6校時  授業(高等部普通科・体育の授業の副指導者) 帰りのSHR  連絡等 放課後  歩行指導(高等部普通科生徒の公共交通機関を利用した下校指導) 他にも、長期休業中(夏休み、春休み等)に登下校指導を集中的に行ったり、現場実習や卒業後の進路が決まった生徒に対して実習先や進路先までの歩行指導を必要に応じて臨機応変に行ったりしています。また、校内の職員に対して歩行指導に関する全般的な研修を実施したり、介護等体験で来校した教員志望の大学生等に対してガイド歩行に関する研修を行ったりするのも、歩行訓練士教員の役割のひとつです。さらに、専門職としての視点から、学校周辺の視覚障害者誘導用ブロックやエスコートゾーン等について、県庁や市役所、警察等に整備や修繕を依頼したり、敷設に際しての助言を行ったりすることもあります。 歩行指導の始まりは幼児期から 初期より見えない・見えにくい世界をもつ子ども達への歩行指導は、感覚・知覚、知識、運動、社会性等の基礎的な事項の指導を早期から積み重ねていく必要があります。そのため、専門性を有する歩行訓練士教員の関わりは不可欠であると考えます。上半身や足の運びが不安定だった幼稚部の全盲児の事例を、1つ紹介します。 先生と手をつながないと身体的にも心理的にも歩くことが難しいお子さんでした。歩行訓練士教員として相談を受け、先生の手を離し壁を伝いながら先生の声のするところまで、ほんの短い距離を1人で歩くことから指導を始めました。また、1人で歩くことへの不安感は、自分の周りの世界が分からないことも理由の1つと捉え、物の永続性の理解や視覚以外の感覚による環境への気づきの指導を同時進行で行いました。プリケーン(白杖導入前に使う移動補助具)を使った歩行練習を始めると、姿勢や歩行の安定性が上がっていきました。その後、自ら有効な感覚を使い環境の情報を集め、予測しながら自信をもって校内を歩く姿を見ることができるようになりました。歩行の際に起点をとる、しっかりとかかとをつけて直角をとる、自分で判断しながら歩く。専門性があるからこそ細かい部分も見逃さず、先々の影響を考えて1つずつ指導を繰り返すようにして、小学部の今、白杖を使い寄宿舎まで歩くことができるようになっています。この成長には、担任との協働も欠かせないものでした。 歩行に関し、今どの段階で、何を目指し、どのようにしたらいいのかが分かると、先生方はそれを日常生活の中に落とし込み定着率を上げていきます。歩行訓練士教員が学校にいることは、日々の子どもの様子から必要な支援を捉え、先生方の指導の羅針盤として方向性を示すことにもつながっています。 歩行訓練士教員の活躍の場は広い、地域でも! 歩行訓練士教員が複数名在籍する盲学校のなかには、センター的機能を歩行訓練士教員が担い、地域の学校で学ぶ児童生徒への直接的な支援を行うとともに、学校や地域全体を支える重層的な役割を果たしている場合があります。 1 児童生徒本人への指導・支援 ・生活圏での実践的指導~通い慣れた地域の通学路や校内、公園など、実際の生活場面に即した歩行スキルをその場で習得できます。 ・専門家による継続支援~盲学校の専門的な知見が地域に届くことで、普通校に在籍しながらも視覚障害に特化した「自立活動」の質が保証されます。 2 地域の学校への支援や研修協力 ・具体的なアドバイス~盲学校の教員が訪問支援を通じて、校内の環境整備(教室や校舎、校庭)や、安全なガイド方法、その他、見えにくさへの配慮点について、具体的に助言します。 ・校内体制の充実~歩行訓練士教員がケース会議等に専門家として加わることで、担任1人が抱え込まず、学校全体の組織的な支援体制を構築しやすくなります。 ・視覚障害教育についての啓発活動~研修会講師として情報提供を行います。 3 地域コミュニティの「理解促進」と「バリアフリー化」 ・社会モデルの推進~歩行訓練士教員が地域に出ることで、近隣住民や店舗などが視覚障害への理解を深め、「白杖SOSシグナル」運動への対応など共生社会の土壌が育まれます。 ・環境改善の契機~専門家の視点から「ここは音が聞き取りにくい」、「段差が危険」といった指摘がなされることで、道路環境の改善や音響信号機、エスコートゾーンの設置など、行政への働きかけにつながることもあります。 4 進路や将来を見据えた「一貫した支援」 ・情報の引き継ぎ~盲学校が窓口となり、個別の教育支援計画を通じて、卒業後の就労支援や福祉サービスとの橋渡しがスムーズになります。 歩行訓練士教員と外部専門家との連携 歩行訓練士教員が配置された上で、外部専門家との連携を進めると、さらなる指導の効果を高めることができます。 外部専門家と連携する主な目的は、外部専門家による授業参観や歩行指導を通して、幼児児童生徒の歩行能力を高めること、指導・助言を受け、教員の歩行指導に関する知識・技能を伸ばすことです。外部専門家から幼児児童生徒の評価や授業に対する助言を得ることは、日々の自立活動の進め方などの具体的な方法に加え、個別の指導計画を作成する上でも参考になります。現在、10年以上継続して外部専門家と連携している盲学校もありますが、教員の異動等があっても幼児児童生徒の成長を一貫して評価できることは利点です。 長期間に渡り連携できる持続可能な方法として、歩行指導の関わり方などはよく話し合って決めること、盲学校内と外部専門家との各種調整をする教員を決め来校日の年間計画を立てること、講師料等の予算をつけることも方法の1つです。幼児児童生徒の中には、定期的に来校する外部専門家に対して、練習した成果を見せたいと意欲的に取り組む姿もあったり、保護者同席で行うことで家庭と学校での取り組みを共有することもあります。 盲学校に歩行訓練士教員がいる・いないに関わらず、外部専門家の歩行訓練士と教員とが良好なコミュニケーションをとり、信頼関係の中で効果的に活用することが理想的です。 保護者の声 卒業したあとの子どもたちに対して思うこと 澤田智洋 盲学校の進路相談で投げかけられた「諦めてください」「働くことは難しいです」という言葉。盲重複障害のある息子を持つ親として、あまりに重く、衝撃的なものでした。確かに既存の社会で彼らが働くハードルは高い。しかし、突きつけられた現実を受け入れるだけでいいのでしょうか。私は「現実を知る」ことと同じくらい、自らの手で「現実をつくる」ことが重要だと考えました。 2025年、同じ悩みを持つ3家族で一般社団法人FULLWONDERを設立。障害のある子の新たな働き方を模索する第1弾として、点字代筆事業「White Letter」を開始しました。大阪万博での展示など、世界へ向けて「新しい現実」を発信し始めています。 卒業後の未来に、出口のない不安を感じている保護者は少なくありません。だからこそ、既存の枠組みに自分を合わせるのではなく、自分たちに合う道をつくっていく。その挑戦の土台となるのが、歩行訓練士の皆さんが支えてくれる「移動の自由」や「自立への意志」です。 現実に絶望するのではなく、1人ひとりが自分の未来を更新していける。 そんな、より良い社会を共に拓いていきましょう 一般社団法人FULLWONDER https://www.fullwonder.jp/ お問い合わせ(発行元) 日本歩行訓練士会事務局 〒538-0042 大阪市鶴見区今津中2-4-37 社会福祉法人日本ライトハウス内 TEL 06-6961-5521 FAX 06-6968-2059