NIPPOKAI LETTER ニッポカイ レター 2019.11 NO.2 日本歩行訓練士会 事務局 〒657-0846 大阪市鶴見区今津中2-4-7 社会福祉法人日本ライトハウス養成部内 メールアドレス:nippokai@lighthouse.or.jp 発行責任者 森 一成 日本歩行訓練士会(日歩会)新たな展開へ! いつも日本歩行訓練士会(日歩会)の活動にご協力いただきありがとうございます。日本歩行訓練士会は7月の総会で新規約もでき新たな展開に入りました。歩行訓練士の皆さんのネットワークを深め、「歩行訓練」「歩行訓練士」の社会的認知を皆さんとともに広げていきたいと思います。 全国組織として整備のために会費を変更させていただきましたが、ほとんどの会員の皆さんが継続参加していただきました。感謝にたえません。これからも結集し、仲間を増やし力を合わせて進んでいきましょう! 日本歩行訓練士会 夏季研修会 2019年7月 講習会・研究会 2019年7月6日(土)7日(日)に神戸市ポートアイランドにある神戸臨床研究情報センター(TRI)にて日本歩行訓練司会の講習会・研究会を開催しました。 関西圏を中心に、中国・四国、九州、そして関東からの参加もあり、全国各地から集まった歩行訓練士が熱い議論を交わしました。今回の夏季研修は両日とも会員(歩行訓練士) のみを対象とした研修で、両日参加44名、1 日のみ参加9名、延べ97名の参加があり、初日終了後の懇親会では終電を逃してしまった方もいたくらい大変盛り上がりました。(写真2枚、1.開会の挨拶をする森会長、2.仲泊先生の講演中の会場の様子) 1日目午前の講習会では、理化学研究所の仲泊聡先生から「身体障害者程度等級の一部改正について」をテーマに新旧の比較をしながら大変わかりやすく話していただきました。また、大阪府立南視覚支援学校の角田フローラ華子氏から「視覚障害者の歩行環境改善への取り組みについて」と題し、ホームドアが設置されているホームの点字ブロックとホームドアの位置関係などについて話題提供があり、グループディスカッションを行いました。 午後からの研究会では、3題の事例報告があり、フロアからも質問があり、活発な議論が繰り広げられ、その後の懇親会会場でも意見・情報交換で盛り上がりました。2日目午前は、国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局神戸視力障害センタ ーの谷英志氏より、「公共交通機関における視覚障害者誘導用ブロックの敷設実態と課題―歩行訓練士の視点からー」のエコモ財団研究・活動報告、交通エコロジー・モビリティ財団の澤田大輔氏から「バリアフリー整備ガイドラインの改訂についてー視覚障害者誘導用ブロックに関連してー」の講演がありました。 午後からは、「全国各地の訪問歩行訓練事業について~いつでも、どこでも歩行訓練を受けられるシステムを~」のシンポジウムが行われました。“訓練事業がない”“歩行訓練士がいない”“訓練を受ける視覚障害者がいない(対象となる視覚障害者に情報が伝わっていない)”などの現状や、歩行訓練士の多くが訓練事業と他の業務と兼務であり、数少ない歩行訓練士でありながら訓練事業に専念できていない現状の危機感などについても話し合われました。(写真3枚、1.発表中の角田氏、2. グループディスカッションをしている会場の様子、 3.シンポジウム登壇者、左から森会長(神戸)、古橋氏(静岡)、良久氏(鹿児島)、京極氏(京都)、堀内氏(大阪) ) <歩行訓練士のいる施設・団体> まだまだ歩行訓練事業や歩行訓練士のいる施設・団体は数少なく、また歩行訓練の事業態や施設・団体もさまざまです。このコーナーでは、少しずつ各地の歩行訓練士のいる施設・団体を紹介します。今回は仙台のNPO法人アイサポート仙台と広島県立広島中央特別支援学校です。 歩行訓練士のいる施設・団体3 NPO法人アイサポート仙台 仙台市視覚障害者支援センター アイサポート仙台 主任就労相談員・歩行訓練士 善積 有子(よしずみ ゆうこ) NPO法人アイサポート仙台は、平成17年3月27日に任意団体「視覚障害者を支援する会」として設立し、平成18年9月27日に NPO法人格を取得しました。団体設立当初より仙台市から仙台市中途視覚障害者生活支援事業を受託し、仙台市視覚障害者支援センターを運営しており、拠点は仙台市障害者総合支援センター内(仙台市泉区)にあります。平成19年からは「地域活動推進センターきりん」を開所し、日替わりでレクリエーション活動を行い、視覚障害者の社会参加をサポートしています。さらに今年度からは相談支援の充実をめざし「相談支援事業所さいぽす仙台」も開所しました。 仙台市視覚障害者支援センターは、相談をメインに行っています。歩行訓練士1名のほか、社会福祉士1名、視能訓練士2名が相談員として在籍し、視覚障害当事者およびそのご家族等からの相談に応じ、視覚障害に関する福祉機器の紹介や社会資源に関する情報の提供、リハビリテーションや生活支援のコーディネート(ケアマネジメント)、福祉サービスの申請手続きの援助等を行っています。昨年度の視覚障害者および家族等からの相談の実利用者数は336名でした。また、障害者福祉施設や介護保険施設の職員等を対象に、視覚障害を持つ利用者への接し方や環境の工夫等について情報提供や助言も行っています。そのほか、就労に特化した視覚障害リハビリテーション、当事者や家族の交流会、一般市民向け講座、関係機関向けの勉強会等の開催や、年に 1回福祉機器展なども行っています。 歩行訓練士は主に就労に特化した視覚障害リハビリテーションを担当しています。就労についての相談を受け、支援内容を決定し、パソコン訓練や通勤経路の歩行訓練などのほか、視能訓練士と連携しロービジョン訓練も行っています。訓練以外にも、地域の就労支援センターや就労移行支援事業所とも積極的に連携しながら、就職活動や就労継続の支援も行っています。 歩行訓練士のいる施設・団体4 広島県立広島中央特別支援学校 校長(歩行訓練士) 重岡 伸治(しげおか のぶはる) はじめに 「強く正しく明るく」という校訓を掲げる広島県立広島中央特別支援学校(旧学校名:広島県立盲学校)は本年度創立105年を迎えます。自律し社会に貢献する人材の育成という教育方針のもと、視覚障害のある幼児児童生徒に対して幼稚部から小学部、中学部,高等部に至るまで一貫した質の高い視覚障害教育を追求しています。本年度の在籍生徒数は50名です。歩行訓練士 は,幼・小学部、中学部、高等部(普通科)、高等部(理療科)の各学部に1名ずつ在籍し、4名で指導にあたっています。校長を含め管理職3名も歩行訓練士の資格を持っています。 広島中央特別支援学校歩行プログラムについて 歩行訓練士を中心に、指導カリキュラム「広島中央特別支援学校歩行プログラム」と「具体的な指導内容・方法」を作成し、このプログラムに基づき歩行指導を行っています。「オリエンテーション領域(定位)」として、1自己の身体の理解2位置関係の理解3環境の理解4道路の理解5地図の理解と歩行地図の活用6歩行経験の再現の6項目「モビリティ―領域(移動)」として、1 直進歩行2歩行姿勢3歩行の調整4手引き歩行5補助具を使用しない歩行の5項目についての指導カリキュラムを立てています。他学部との連携については、オリエンテーション領域とモビリティー領域の指導項目と指導段階を引き継ぎ、更に、個別の指導計画をとおして歩行訓練士と担任が目標設定を確認しています。 指導体制について 本校では、基本的には自立活動の時間に歩行指導を行っています。登下校の歩行指導に関しては、基本的には授業内で行いますが、自宅が遠く授業時間内に指導できない場合は、放課後や長期休業を利用して行っています。 本校の教職員研修について 新転任者に対しては研究部が主催する年間14回の研修のうち歩行指導に関する内容を2回行っています。1回目は歩行指導の基本概念と手引きによる歩行の仕方、2回目は屋内歩行の仕方を研修内容として設定しています。また、歩行訓練士が主催し「手引き歩行技術」「教室内歩行」「校内 歩行」「日常生活訓練」等の自主研修を開いています。研修後には「日々、子ども達がどのような感じ方をしているかや、どんな困難さを抱えているかが分かった。」「具体的な言葉掛けや物の配置の工夫等、勉強になった。」という感想が聞かれます。こうした研修が幼児児童生徒の気持ちや学習上・生活上の困難さに気づくきっかけになればと考えています。 おわりに 歩行訓練士が指導に当たって心がけていることとして,1「知識」専門家としての幅広く深い知識に基づいた指導2「技術」対象者の実態を的確に把握し、その人に合った指導(個別最適化)、3「傾 聴」対象者の気持ちに寄り添い、親身になって考えるこ とを大切にし、より良い歩行指導の在り方等を校内外に伝え広めていきたいと考えています。こうした使命を果たし、目指す学校像・生徒像を実現するために教職員が一丸となって教育活動の充実・深化を図っています。 (写真は正門前の通称「桜坂」:満開の桜が新入生を迎えます) 歩行訓練士の先人たち 2 このコーナーでは日本で視覚障害の歩行訓練が始まる、広がる、発展するにあたって尽力された歩行訓練士の大先輩を紹介していきたいと思います。原則として旅立たれた方、歩行訓練から完全に引退された方とさせていただきます。今回は会員の速水洋さんから畑岸和男さんの原稿を寄稿していただきました。速水さんは大先輩(先人、レジェンド)の情報を集めており今後も寄稿していただくかもしれません。皆さんも歩行訓練士の大先輩(先 人、レジェンド)の情報がありましたら、ご連絡をお願いします。 歩行養成 第1期生 ジオム社 社長 畑岸和男(はたぎし かずお)さん 速水 洋(はやみ ひろし) 今回の歩行訓練士は畑岸和男さんです。畑岸さんといえば、皆さんもご存じの通り「ジオム社の畑岸さん」です。しかし、日本で正式に歩行訓練士の養成が始まる以前に歩行訓練を行っていたことについてはまり知られていません。 畑岸さんは1945年に大阪で生まれ、1967年に中京大学体育学部を卒業後、すぐに日本ライトハウスに体育の指導員として入職されました。視覚障害に関して何の知識もなかった畑岸さんですが、入職の際のオリエンテーションで歩行指導もあったそうです。オリエンテーションを担当したのはアメリカ海外盲人援護協会(AFB)より、日本ライトハウス盲人職業訓練センターにコンサルタントとして派遣されていたアルフレッド・ジャーマン氏です。その後、体育を担当しながら大槻守氏と2人で集団歩行訓練を行ったそうです。集団での歩行訓練は望んだやり方ではなかったのですが、訓練生も多く仕方がなかったそうです。 日本ライトハウスが設立されたのが1965年、日本で歩行訓練士の養成が始ったのが1970年のことですから、それより3年も前から歩行訓練をしていたことになります。第1回目 (1期生)の歩行養成には当然のように参加して、それからはマンツーマンの歩行訓練を行いました。第2期からの歩行養成には講師として加わっています。 1974年、実家(包装材料の製造、販売)を継ぐために7年間勤めた日本ライトハウスを退職しました。 1975年、視覚障害リハビリテーションへの情熱はさめず、白杖等を取り扱うようになり、(有)ジオム社を設立しました。ガイドドッグ(盲導犬)、オリエンテーション&モビリティ(歩行訓練)という言葉の3つの頭文字「GOM」からジオム社の名前が生まれました。盲用具の開発、製造、販売の他、出張展示も積極的に取り組んでいます。 最後に、歩行訓練については、複数の歩行訓練士が必要(できれば男女)、初期の段階できちんと指導しないと自己流になりがちなので、しっかりとした動機付けが重要だと仰っていました。 交通エコロジーモビリティー財団バリアフリー研究・活動助成 2018年度・2019年度 2年連続助成いただきました! 文責 堀内恭子 2018年度は、「公共交通機関における視覚書障害者誘導用ブロック(以下ブロック)の敷設実態と課題―歩行訓練士の視点からー」というテーマで研究を実施しました。 日本歩行訓練士会の会員225名にアンケート調査を実施し、6名の視覚障害当事者に現地調査をお願いしました。調査結果は、視覚的コントラスト、敷設方法、触覚的コントラストの3つの課題に分類され、視覚障害者が安心して安全に移動できるためのツールとして、ブロックが敷設されていない場面が多いことが明らかとなりました。 調査の中で周囲の床面とブロックの材質が異なることで、当事者にとってブロックがわかりやすい傾向はみられたものの、具体的にどのような床材やブロックとのコントラストが有効であるのかは明確にできませんでした。 そこで、触覚的コントラストの視点からの調査・研究を実施する必要性を感じ、2019年度も申請を行ったところ助成金をいただけることになりました。「周囲の床面と視覚障害者誘導用ブロックの触覚的コントラストに関する研究-歩行訓練士の立場からー」というテーマで研究を続けてまいります。皆様のご協力をお願い申し上げます。 また、ブロックを敷設する場合、設計段階において、歩行訓練士などが関与していくことがとても大切で、歩行訓練士の存在や白杖の使用方法などについて広く皆様に知っていただくことが重要であると思います。 以下の場面で2018年度の研究結果について発表いたしました。 2019年6月10日 交通エコロジーモビリティー財団 成果報告会にて報告 7月27日 第28回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 口頭発表 7月7日 日本歩行訓練士会 夏季研修会にて報告 8月8日 第22回福祉のまちづくり学会 口頭発表 表1  (写真1枚、日歩会夏季研修会での谷会員の報告) 研究を担当した会員 島田延明、武田貴子、谷映志、中村透、古橋友則、保坂亨、堀内恭子、松下昭司 以上